いよいよ、初出勤の日。
社員さんから、派遣されるお宅が決定したと告げられる。
「鈴木さん、このお宅を紹介するのは、初めてこのお仕事をする方向けではないのですが、あちらがお急ぎとのことで、まだ、担当を持っていない貴女に白羽の矢が立ちました。
もし、行ってみて、無理そうなら、御断りができますので、言って下さいね。
これ、地図と先方の連絡先です。よろしくお願いします。」
と。
「わかりました。とりあえず、行ってみますね。無理そうなら、言います。行ってきます。」
と、会社を後にして、地図を頼りに目指すお宅に向かった。
が!私は致命的な方向音痴…。
やっぱり、迷った。ので、聞いていた連絡先に電話して、なんとか、到着!

凄い!凄い家だ!
門かデカイし、塀で囲まれていて、全容は見えないが、とても大きいお屋敷。
こんなとこで務まるかなと不安になったが、家政婦になったが、最低50万円払えるんだから、そうだよね。と思い、ベルを鳴らした。

しばらくして、男の人が出てきた。
「誰だ?」
とギロッと睨まれる。
ビクッとしたが
「あの、今日からお世話になります家政婦の鈴木雪と申します。」
と頭を下げた。
「ああ、家政婦ね。聞いてるよ。入んな。」
と言われ、家に入る。
玄関だけでも私のアパートの部屋が入るんじゃあないかと思った。
黒い靴が整然と並んでいる。たくさん…。
応接室かな?に通されて、しばらく待つと、男の人が二人入ってきた。
私は固まった。
何故って…。あまりにも二人に迫力があって、さらに二人ともイケメンだったから。
1人は少し長めの緩やかな髪を流して、優しい目をしている。王子様のようなという形容詞が付くだろう。もちろんイケメン。
もう1人は…。
短い黒髪を撫で付け、鋭い目をしている。
こちらもイケメンだが、獰猛な雰囲気。
「あれ。家政婦さんって聞いたけど、随分若いね。しかも、綺麗な子だね。」
と王子様。
き、綺麗?言われたことないけど。
お世辞だろうと思い、愛想笑いしながら、
「はい。家政婦の鈴木雪と申します。よろしくお願いします。
あの、こちらの旦那様でしょうか?」
と聞くと
「旦那様?」
とぷっと笑う。
「ああ、ごめんね。僕は旦那様に見える?
ここの主は隣の社長。
藤城翔悟だよ。僕は加納智仁。秘書的な感じかな?」
と笑う。
「そうですか。では、藤城様、家政婦の鈴木雪と申します。よろしくお願いします。」と改めて頭を下げた。
藤城様に睨まれてる?何かお気に触ったのかな?と思っていると
「お前が?うちがどんなとこかわかっているのか?」と言うので、
「いえ、詳しくは存じません。が、一生懸命頑張ります!」
と再び頭を下げた。
ふぅっと息を吐いて藤城様は言う。
「うちは所謂、街の用心棒だ。男ばかりのな。」
と。
街の用心棒?はっとする。
それは…。極道?というやつ?かな?
雰囲気はそうだと雄弁に語る。

(大丈夫かな?私。でも、お仕事だしね。)
と決意して、
「少しビックリしてますが、男所帯だと、家政婦は必要ですよね。頑張ります!」
と答えた。