バレンタイン当日。

「バレンタインに浮かれず、勉強しろよー」

担任の声に、はーいと、ぱらぱら返事が返る。

「解散っ」


休み時間や放課後の時間に、チョコレートがあちらへこちらへと渡り歩く。

大悟は男女共に囲まれ談笑し、机の中からはチョコレートの包みがあふれていた。

「大悟くん、チョコあげるー」

「おー、サンキュー」

クラスメイトの女子が差し出したチョコレートを明るく貰い受ける大悟。


そんな大悟に友人がドアのそばから呼びかけた。

「大悟―、ご指名だぞー」

ドアの外にはロングヘアの女生徒が一人。

大悟と目があったのだろう、ぺこりとおじぎをする。

大悟は立ち上がり、ドアの外で何事かを話し、廊下へと消えていった。

「ありゃ本命だな」

「すっげ美人―」

大悟の友人たちが訳知り顔で品評する。


砂名は、一連の出来事に耳を澄ませながら、カバンの整理をする。

こんなことは毎年のこと。

同じクラスの時はいつも見ていたじゃない。

そう自分に言い聞かせる。


カバンの中には、ピンク色の包装紙に包まれたチョコレート。

教科書や辞書の間にちょんと収まっている。

それを取り出す勇気が出ず、周りの生徒たちが下校をしていなくなっても、砂名は一人教室でカバンの中を見つめていた。

(勇気を出して、砂名)

自分の心にはっぱをかける。

(でも離れたって幼なじみという関係はなくならないでしょ。わざわざ関係を壊してまで伝えてどうするの。気まずくなるだけじゃない)

心の中のおしゃべりが大きくなる。


その時、ガラガラとドアのあく音がした。

「砂名っ」

聞きなれた大悟の声だ。


はっとして、顔をあげるといつもと変わりない大悟がそこにいた。

「一緒に帰ろーぜ」

「う、うん」

あわてて、カバンを閉じ、立ち上がった。