間近なその景色に息を呑む翠の気配が伝わる。
柄にも無いが喧嘩した後やムシャクシャする時にフラッとここにやって来た。
ここに他人を入れる気持ちは更々無かったが……
どうしてか翠には見せてやりたいと思った。
「綺麗……っ。
夕陽なんて……ちゃんと見たことなかった」
「たまには全部忘れてボーっとすんのも悪くねーだろ?」
「お、慰めてくれてるの?」
「その調子だといつも通りに戻ったか」
「どうだろ?
泣きたいはずだったけど……もう涙は出なかった」
「……そーか」
「きっと魁人がいてくれたからかも」
夕陽に横顔を照らされた翠の微笑は嘘偽りなく。
つられてオレも小さく笑った。
「もしも1人だったら多分……
先生に心ないことを言ってたかも知れない」
「彼氏の前で他の男の話とか余裕あんじゃん?」
「なっ……そんなんじゃないし……」
「もう1人になったことを考える必要もねーだろ?
ここに……オレがいてやる」
「な、なにそれー……っ」
翠の声音はいつもの否定する力強さは無かった。
急がずとも、ゆっくり進めばいい。
しかし、まぁこんなはずじゃなかったのにな。
いつの間にか心は少しずつ翠へと傾く音を小さく響かせていた…────────



