「あ、今日放課後空けとけよ」
「……なんで?」
「決まってんだろ、デートってやつだよ。
デート」
「その馬鹿にするような口調ホント腹立つー……!」
ムキになる翠は学校が見えてくると、付き合ってらんないと、怒ってべーっと舌を出し校舎へ駆けて行く。
「ハハ。おもしれー奴」
艶のある髪を揺らして走って行く翠の後ろ姿を見ながらオレの足は迷わずに屋上へ向くのだった……
「あのね。
あたしは魁人、アンタに条件をもうひとつ加えたい」
「はぁー?
今更それはねーだろ?」
「授業に出なさい、ばか!」
「いや多分翠よりは頭良い自信あるわ」
「そんなわけあるかぁー!」
放課後、ムスーっとした顔のままやって来た翠。
よほど今朝のことを根に持っているらしい。
しかしこうしてオレの作った予定に合わせる姿勢はあるようだ。
「ま、それは追々検討してやるよ」
「今してよ、今!」
「あ……もしかして……翠ちゃん?」
「へ……?
ふっ……福島先生……!?」
つっかかってくる翠の名前を呼んだ別の声。
翠はその呼び掛けに確かに答えた。
“福島”と。
「ど、どうしたんですか……!?」
「実は今度この高校と交流戦することになってそのことで訪ねてきたんだ」
「じゃあ……本当に先生になれたんですね……っ」
「お陰さまでね。
ちなみに勤務先もすぐそこの高校だよ」
「えっ、そうだったんですか!」
確かに顔も整ってんな。
オレには負けるけど。
翠は飼い主に構ってもらう子犬のように尻尾を振って愛想を振り撒いていた。
特に話題に参加する理由もないオレはふと福島の左手薬指を見た。
そこには金色の幸せそうな光を溢すリングが嵌まっていた。
オレの視線の動きに気付いたらしい翠もそれを見たようだ。
「……先生。
今、幸せですか?」
「え……?
あ、あぁ。
とても幸せだよ。
なりたかった教師にもなって、支えてくれる大切な人もいる」
「そうですかっ。
良かったです、そんな言葉が聞けて……」



