それからオレが風の噂で翠が更正したと聞き付けた。
成績を驚くほどに上げて高校へ合格。
オレも面白半分で後を追うように入学。
それほど学力の欠如は無いオレだから簡単な話だった。
「でも、その人にはもう……特別な人がいた。
叶わない恋だったの」
「まぁ一応は教師と生徒って括りだしな」
「それもあったんだけど……。
あの人が学校へ来る最後の日……
もうすぐ結婚する彼女がいることを知ったの」
懐かしそうにそして少し痛みに目を伏せた翠はそう語った。
初恋は叶わない。
そのジンクス通りの結末を辿ったらしい。
「喧嘩で身体に負う傷より心に負う傷のほうがずっとずっと痛いもんだよ」
冗談っぽく、でもどこか弱々しく語った翠にオレは完璧だったはずのイメージが少し崩れるのを感じて。
この学校のナンバー1ヒロインでさえ失恋することがあるのかと。
「あの人がいたから今のあたしがここにいる。
そのことだけは一生あの人に頭が上がんないよ」
「……そーかよ」
「同じように魁人にも頑張ること知ってもらいたいって思ったの。
魁人、毎日つまんなそうな顔してさ。
重なるの、あの頃の自分と……」
オレ自身に拘る翠の理由はそれだったのか。
「……いいぜ。
そこまで言うなら更正してやっても」
「えっ……」
「ただし条件がひとつ」
「条件……?」
口元に人差し指を添えてニヤッと口角を上げる。
「オレが更正する代わり、翠はオレの恋人になる」
「……こ、恋人ぉ!?」
突然何を言い出すのかと言いたげな翠は警戒心を少し露にした。
「翠がオレの彼女になったって聞けば押し掛けてくる女子もいなくなるだろーよ。
賢い生徒会長サマなら解るよな?」
「……うぅ。
そう……だけど」
翠は損得を計算するように視線を泳がせていた。
「……分かった。
その条件呑むよ」
しかし辿る結論はやはり釣り合ってしまって取引を呑んだ。
「でも、あたしからも1つだけ。
いい?」
「なんだよ?」
「金輪際、喧嘩はしないこと!」
「……はぁ。
仕方ねーな」
「よし決まり、ね?」



