と、翠に尻を蹴っ飛ばされて仕方無くいつものように言いくるめて女子生徒達を校門まで見送って帰した。
「……ったく。
本当に問題ばっかり」
校舎に戻ると壁に背中を預けて腕を組む翠が呆れた顔をして待っていた。
「こんなにイケてると女子が放っとかねーんだよ」
「可哀想ね、あの子達。
世界は広いってことを教えてあげなきゃ」
「……あのなぁ」
「じゃあ、あたしは生徒会の会議あるから」
「あ、ちょっと待てよ」
「なに?」
立ち止まって視線を絡めた優等生の翠はこの堅苦しい学校の風景によく似合っていた。
「そういやさ、なんで更正したわけ?
それとも更正したフリ?」
「誰かさんと違ってもう更正しましたー、すっかり」
小馬鹿にしたように笑ってから、翠は少し遠い目をした。
「……実はさ。
あたしが更正したいって思えるキッカケをくれた人がいたの」
「……へぇ。
誰も手をつけられなかったほどの不良を?」
「もう……っ。
それは過去の話ー。
中学3年生の時に教育実習生っていう名目で来た福島先生がその人だった」
その福島という人物こそ……
あのトップクラスの強さを誇った翠を簡単に更正させてしまったわけか。
「あの人ね初めてあたしの一打を受け止めたの。
いやぁ、あの時は痺れたねー」
「教育実習生はとんだ化け物だったってわけか」
「本当にそうかも。
喧嘩ばっかりだったあたしに構い倒して……
なんかあたしも根負けして折れちゃってさ?」
“誰かに負けたと思ったのは初めてだった”
そう付け足した翠。
沢山の初めての感情を……
ソイツは教えたのか。
「会えたのは2週間だけだったけど……
先生に心を許して……
沢山褒めてほしくてその想いが……恋に変わった」
そんな教育実習生に対してオレの中でくすぶっているこの感情は……なんだ。
居心地が悪くて、眉間にシワかわ寄る。
翠はそんなオレに気付くことなく話していた。
「先生に認めてもらえるような生徒になりたいって。
初めての感情ばっかりで戸惑ったけど。
今ではあたしの大切な過去だね」



