中学まで最強ならぬ最凶とまで言わしめた不良の翠は高校ではすっかりその毒牙を潜めて。
今ではこの高校の全校生徒の憧れの的へ豹変した。
「だからそんな気はねーって言ってんの」
「アンタは絶対黒の方が似合う」
「ダサいっての、黒とか」
元不良ということもあって、はみ出し者のオレにも臆することなくつっかかってくる。
どうしてそこまで変わったのか。
中学が違うため知らないオレは単なる好奇心からくる疑問を晴らしたくて。
将来の目標なんてものもあやふやで適当にここへ入学。
あの手この手で風紀を乱すオレを説得しようと振り回されている翠を見て内心ほくそ笑む。
そうやって困ってオレに振り回されていればいい。
「高校生なんだから文句言わない。
というかもう授業始まるから教室戻って」
「……おーよ」
もうそんなセリフも聞き飽きて空返事をしながら翠に背を向けて寝っ転がる。
「……はぁ。
全く……とにかくその髪早く直してくること」
生徒会長として翠は風紀を乱すオレを説得するも効き目無しの日々。
「オレにはこれが一番似合ってんだっつーの」
呆れたように溜め息をついた翠は余鈴が聞こえたのと同時に屋上から去っていく。
屋上の重たい扉の閉まった音を聞き取ってからムクッと起き上がる。
「……何が楽しくてあんな真面目なフリしてんだか」
中学は先ほども言ったように別々だが喧嘩をしていた翠の姿は何度も見た。
力強いのにしなやかで、荒々しいのに無駄が無くて。
男相手にも怯むことなく勝ち続けていた。
オレには女を殴る神経など持ち合わせていなかったから喧嘩をしたいとも思わなかったが。
……否。
負けることを本能的に悟っていたからなのか。
翠のことを遠巻きに眺めていただけであった。



