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「横井魁人ォ!
どこにいやがる!
出てきやがれ!」
ようやく翠も過去のことを受け入れ始めた矢先。
翌日、オレらの高校には面倒な来客が。
「人の女に手出しやがって!」
「……どういうこと?」
「あれじゃね?
この前勝手に乗り込んできた女の誰か」
「……あぁ」
校庭で待ち構えるチンピラの成り下がりを少し離れた所から翠と眺めていた。
「そういやテメェも新しい女が出来たらしいじゃねえか?
なんならオレが貰ってやろーか、あぁ?」
「……ふざけたことばっか言いやがって」
オレがどこか近くにいる体で話を進める野郎に沸点の低いオレは翠を引き合いに出されて校庭まで乗り込もうとした。
「……駄目だよ、魁人」
「離せよ。
あんなん言われて我慢できねーんだよ」
「約束したでしょ、あたしと。
喧嘩はなしって」
「……ッチ」
しかしそれは翠に止められた。
喧嘩はしないという条件付きだから当たり前のことなのだが。
「今はその条件は無しだ。
退け」
「絶対に退かない」
翠の目も本気そのものだった。
「あたしが行く」
「はぁ!?
何考えてんだよ!」
「忘れたの?
あたしが誰かってことを」
「……っ」
言葉に詰まったオレを置いて翠は一人で校庭へ。
翠との喧嘩をしないという条件を仕方なく今は呑み。
怒りに震える拳を必死に抑え込んで翠の背中をただ睨み付けていた。
「あたしが魁人の新しい女ってやつだけど」
「ほぉ。
度胸あんじゃねーか」
「当たり前でしょ。
上城翠に怖いものがあるとでも?」
「なぁ……っ!?
お前……あの……上城……っ」
一方の翠と言えば真っ向から対峙するその視線だけでも相手を威圧するには充分だった。
向こうは早くも翠の名前に戸惑っていた。
それだけで過去とは言え未だに畏怖する恐怖心は薄れないのかと客観的に感心してしまう。
「魁人はアンタの女を取ってない。
向こうが勝手に言い寄ってきてたの。
一番の被害者はあたしなんじゃない?」
“納得いかないなら、とことん付き合うけど?”
トドメだと言わんばかりの駄目押しの言葉に相手は情けなく尻尾を巻いて逃げ出した。
「まあまあやるじゃねーか」
全く自分はとんでもない相手に惚れたもんで。
翠はケロッとした顔で戻ってきた。
「別にあの程度ならいくらでも。
守ってあげてもいいけど?」
余裕綽々たる笑みを浮かべる翠にオレはポツリ呟いた。
「……覚悟しとけよ、翠?」
「……なんのこと?」
「いつかおとして本気で惚れさせてやるってこと」
「……勝手にすれば……っ」
ふいとそっぽを向いた翠の耳は真っ赤で内心クスリと笑う。
高潔で純情な生徒会長サマがこの手に堕ちるまであと少し。
そんな今日なのであった…──────────
【END】



