それからしばらくモーシンとは会わなかった。

しばらく仕事に明け暮れて、たまに来るモーシンからの電話に答えて、たまに彼と一緒に時を過ごした。一緒にいる時はとても楽しかった。彼は、私を狂わせてくれる。

その他の時は、ある年配の人の家へと出かけるようになってきた。70代に差し掛かる年齢の男性。名前は秋川正。以前付き合っていたボーイフレンドのカイトが最近その男性のところに勉強しに行っているらしい。話を聞くと、カイトのことを親身に導いてくれている様なので、気になってその男性に会ってみた。

この秋川という男性は、なかなか癖のある人間だった。

カイトのことを「なかなか骨のある熱い若者なので、教え甲斐がある。」と言っていた。一緒にバングラデシュ、インド、パキスタンでスリルを味わってきたカイトだ。まあ彼の解釈は納得できる。

秋川さんは、社会で言えば『先生』と言われてきた人で、大学教授としてのキャリアを積んだ後、自分で事業を幾つか立ち上げて、それを莫大に成功させたり、莫大に失敗したりして、人や時代に多大に貢献したり、迷惑かけたりしてきた、無茶苦茶な人だ。今、とにかく若者に会いたいという気持ちらしく、2年間と時間枠を決めて、若者に会い続けているという。彼曰く、「次の世代に残さなければいけないことを伝えたい」らしい。彼は、「人間魚雷の基地で生まれた」らしく、その後世に伝えなければいけないという思いは半端ないらしい。この1年で百数十人の若者と話はできたらしい。でも、まだ「後世に自分の思いを引き継げる若者」は確実には見つかっていないと言う。

いつも私たちにお茶を入れて迎えてくれる秋川さんの奥さんはとてもできた奥さんに見える。破茶滅茶な秋川さんを飽きずにずっと支えてきたというのだから。

カイトは言う。「僕、秋川さんから学んで、やりたいこと見つかったんだ。カスミちゃんも一緒にできるかどうかはわからないけれど、でも話聞いてよ!僕たち若い人の叫びを形にするんだよ!」

久しぶりに会ったカイトは、無駄なものが排除されて、かなりたくましくなっていた。