いつものように授業が終わるチャイムが鳴り、教室が一気に騒がしくなる。
高校生活2年目ともあって、皆青春を楽しもうと必死なのだ。来年には受験を控えているのだから、今しか遊ぶ時間がないらしい。

少し重めの鞄を掴み、早足でドアへと向かう。取っ手に手をかけた瞬間、一歩遅れて声がした。

「神永レイ!止まりなさい!」
「………」

ざわついていた教室が、一気に冷めていく。皆が私に視線を向け、声を発した張本人の城山に移動し、ご愁傷様、というような顔を向ける。

その顔を向けられるのは私のはずだ。
あともう一歩早かったら、名前なんて呼ばれず注目もされず、家で一人でくつろぐことが出来たのに。

ため息をつくことすら面倒くさく、ちらりとクラスメイトを一瞥してから口を開いた。
「…何?」

思いのほか低い声だったが仕方ないだろう。私の近くにいた女子が「ひっ、」と引きつった声を上げたが、聞こえないふりをした。そんなこと日常茶飯事だ。

城山は大声をあげて引き止めたにも関わらず、つかつかと近づいてきた。
そして私の腕を取ると、一目散に廊下を走り出した。
「ぇ、っ!?」
足がもつれて上手く走れないが、それでも構わずにぐんぐんと廊下を突き進んでいく。後ろの方で黄色い声が聞こえ、小さくなって消えた。