「えっ。あの…」



「人間、小説の主人公みたいにまっすぐじゃない時の方が多いんだよ。好きな人に正直に向かっていけないし、酷いことをされた後に、その人をすぐには助けられない。それは当たり前なんだよ。」



彼の話は自然と心に入っていって



彼女が実は男の子で



今私は抱きしめられている



なんてことはどうでもよくなった。



「君は一人の人間で、汚い部分があって当たり前なんだ。……それと…ごめん。」



彼に謝られることなんてなかったはず。



「な、なにが?」



「君は僕のことを女の子だって思ってただろう?」



「えっいや、それは私が勝手に勘違いしてて…。」



そう、彼は一言も女の子だとも男の子だとも言ってなかった。



「それと、僕の姉さんが君に酷いことを言ったみたいでごめん。」