「中西くん…」
「話ってなに?」
わかってはいるものの、つい聞いてしまう。
「智弘さんのこと…知ってる?」
「離婚したこと?」
「…そう」
数年前、アニキの奥さんだった花さんの不倫が原因で離婚したと聞いた。
一緒に住んでないから今どうしてるかなんて知らないけど…
「私ね、智弘さんと結婚することになったの」
「アニキと…」
「卑怯だと思う?
弱みに漬け込むのは」
きっと、ずっとアニキのことが好きだったんだろう。
誰かと結婚しても、気持ちが変わらないくらい。
「でも、卑怯でもなんでも私の好きな人がやっと私の方を向いてくれた。だから逃したくなかったの。私だけを見てほしかった」
「俺は、もう自分の好きな人にこっちを向いてもらえる可能性はないのか」
「昔、私に聞いたよね。花さんから奪うつもりなのかって。
貴方は私を、貴方のお兄さんから奪うつもり?」
「まさか十数年経ってからその質問を返されるなんてね」
笑いが止まらない。
なんだ、結局俺はダメなんじゃないか。
「私が言える立場じゃないけど…きっとどこかに貴方のことを好きだと言ってくれる人がいるよ。だから私のことは…」
「諦めろってか」
「ごめんね」
「良いよ。
でもアニキに泣かされるようなことがあったら俺は奪いに行くよ」
あるはずもないことを仮定する。

