彼女を抱きしめたい衝動を押し殺し、感情が通り過ぎるのを待った。
 当たり前のように迎え入れてくれるのが嬉しかった。
 慣れ親しんだ家よりも、彼女の側に居ることで感じる安心感。
 その想いの意味はずっと前から気付いているのに。
「ねぇ、ネシス」
「何―?」
 マキセの呼びかけに台所から返事がくる。こちらにやってくる気配はない。
「今度、王城にさぁ、官吏用の住居ができるんだけど、そっちに移るように言われてるんだ」
「…………」
 台所から物音が止んだ。
「そこ、単身用じゃないからさぁ……」
 ネシスの足音。
 慌てた表情の彼女を目前にして、きっぱりと言葉にする。
「一緒に暮らそうよ」
「……今までのように?」
「今まで以上に」
 おいでとばかり広げた両腕。
 誘われるようにやって来た彼女の躰を強く抱きしめた。
 思ったよりも小さく細い躰。しかし、しなやかで温かい。
 彼女の指先がマキセの唇を探るように触れた後、重ねられた唇。
 それが彼女の答え。
「ずいぶん待ったんだから、責任取りなさい」
「それはもう、一生かけて」


                   【END】