彼女に拾われたのは何年も前だった。
 独り、子供の頃に身に付けた武芸で警護などをしながら生計を立てていた。
 クスイは賭博の国。各国の遊び好きの金持ちも多く訪れる。
 地方から訪れた豪族の宿泊する旅館警備に就いていた時、
「ねぇ、ちょっとでいいから情報教えてよ」
と、笑みを浮かべてやって来たのが、彼女だった。
 彼女の仕事は情報の新聞屋。
 権力者のスキャンダルや悪事など、数人の仲間と共に記事にして市井にばらまいていた。
 立場上、彼女の欲しがる情報を漏らすことはなかったが、女性にしてはさっぱりした性格の彼女に好感を抱き、使用で話すことも多くなった。
 そんな中、悪事をバラされた人物が彼女との繫がりを知り、雇い主から疑いをかけられ信用を失って職を無くしたとき、
『ま、私も無関係じゃないしね』
と、彼女にウチにおいでよと拾われた。
 その後、やましいこと何もはないぞ、という意思表示のような雇い主が次々と現れ、警備や護衛としての依頼が入り生活に困ることもなくなったが、相変わらず彼女の元へ身を寄せていた。
 3つ年の離れた年上の彼女を、姉のように慕っていた。
 それは今も変わっていない、…表面上は。
 悪事をバラされた者に、彼女は捕らえられた事件があった。
 助けられた彼女を見て認識した。
 どんなに強くても彼女は守るべき女性であり、大切な人なんだ、と。
 抱きしめたのは、たった一度。
 再び、すべてを無くすことを恐れた。
 ―再びが起こることを、何より恐れた。