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─────────…10月。
それは文化祭の時期である。
高校生にとっては一大イベントで……
中学の頃よりも出来ることが増えるし、蛇足を加えるとするならカップルが出来たり……。
だが今の私にはその方面とは違う憂鬱さを覚えていた…────────
【Kiss*You】
「はいっ、じゃあ!
くじ引きの結果、ヒロインは凍堂凛ちゃんに決定ー!」
「……嘘でしょ」
……な、ん、で!
どうして私なのか……!
文化祭の出し物で私のクラスである3―2は演劇、白雪姫をすることになった。
毒リンゴを食べてしまい眠りにつくお姫様が王子様のキスで目覚めるという鉄板もの。
まずは配役決め、という大事な所で劇をやると言った言い出しっぺがまさかの裏方へ。
必然的に主役と準主役の席は空き、順にくじ引きで役を決めていくことに。
その結果がこれだ……
「……最悪っ」
周りの空気を壊さないためにも小声で悪態を突く。
とてもじゃないがそうでもしないとやっていけない……。
無口で人前に出るのが大の苦手な私だから本当は裏方へ回りたかったし、回るつもりだったのに……
「……て、てか……相手役は……?」
続いての発表が主役の王子様役。
固唾を飲んで見守る私。
……あぁ、高校生最後の文化祭でなんでこんなにソワソワしなくちゃいけないの……
さよなら、平和なはずだった文化祭……
「えー、では皆さんお待ちかねの!
主役の発表でーす!」
この次に裏方の発表があるので主役が誰なのかまだ分からない。
「白雪姫の主役の王子様役は倉本緋彗くんに決まりましたーっ!」
“倉本緋彗”
発表する彼女の口からその名前が放たれた時、クラス中は女子の黄色い悲鳴で溢れた。
否、私以外の、女子だ。
艶と芯のある黒茶の髪をフワリと靡かせ、綺麗に整った眉、切れ長の力強い瞳とキュートな泣きぼくろ、通った鼻筋、色気のある口元。
言わずもがな学校で爆発的人気を誇っている。
ザ・リアル王子。
私のやる気はとことん下がりきる。
きっと他のクラスメイトなら卒倒する勢いで歓喜するはずだ。
しかしその反面、快く思わない人はいくらでもいる。
つまり的が私になるということは……
少なからず目の敵にされるということで。
まずそこが一番の憂鬱ポイントだった。
この3年間、そこそこ平和に波風立てずに人の顔色を窺って生きてきたというのに……っ!
ここにきて究極の選択を迫られている。
ひとつでも選択を謝れば即、不登校行きだ。
「じゃあ早速今日から倉本くんと凛ちゃんは放課後から残ってセリフ合わからしてもらうので!
あ、台本は放課後までにだいたい固めておくから気にしないでね!」