和泉は同じマネージャー。
後輩といえども毎日顔を合わせる。
和泉がこの男に気があるのをわかった上で一緒に帰るっていうのは気が引ける。

女子の中での暗黙の了解みたいなもんで、毎日会う後輩から敵意剥き出しでこられたらやりづらくてしょうがない。

「約束してなくても一緒に帰るべきやったんじゃない?」

言うたら引き返すかな?と思って言ったけど、「そうか?」と振り返りもせんかったから諦めた。

「それにしても和泉はよう出来る子やな」
「あたしほとんど動いてないし」
「後輩出来たからってサボってんのか」
「んなわけないでしょうが」
「冗談やん!俺だってちゃんとお前の仕事っぷりちゃんと見てるし」

誰にでも笑いかける人懐っこい性格はこの男のいいところだと思う。
あたしですら癒される時がある。
今はただ鬱陶しいだけだけど。

「それにしても最近マジで和泉が仕事するから真が先輩らのオアシスになってもうたな」
「はぁ?それは和泉やろう」
「いや、だって先輩ら言うてたもん。和泉は可愛いけど話してておもろいのは真やって」
「それは…どうも」
「なんやかんや言うても人間外見ちゃうな。可愛い和泉より中身も見た目もええ真の方がモテんねんで」
「それはどうも」

人間中身ちゃうって言うたところであんまり説得力ないのは言わんといた。

同感ではあるけど、結局第一印象が全て。
話して人間性を好きになるには外見なんて必要ないと思う。
そういう意味でモテてるなら嬉しい。
あたしも先輩らと話してる時間は楽しい。

こういうコミュニケーションって外見ではどうにもならんくて、互いに好きでなければ話は繋がらんし興味が無ければ途切れてしまう。
でもそれはそれ。
あたしみたいなサバサバした女はそういう対象になかなかはいらへんのが現実。
別にモテたいわけじゃないけど。

「真は媚びたりせえへんのがええねん」
「…でけへんからね」
「それがええねん。俺もそういう真が好きやからなー」
「毎日女の子取っ替え引っ替えしてるあんたがよお言うわ」

さすがモテる男は違う。
サラッと恥ずかしがることなく言ってくれる。
素直っていうんか確信犯なんかあたしにはどうでもいいことやけど、こういう事を言えるかどうかってのも理由の一つなんやろう。

「いやいや、俺は恋愛に興味ないわけよ」

これもさすが。
思春期真っ只中の高校生男子が恋愛に興味ないだなんて嘘ついて言っても本心ではありえない。
男じゃないからわかんないけど、これが本音ならびっくりするですまない。

「恋愛に興味ないって言いながら女の子は周りにいるやんか」
「俺が呼んだんちゃうもん。勝手にくんねんもん」
「…あんたサラッと酷いわ」
「なんでなん。俺はちゃんと登下校もひとりやぞ!」
「威張らんくていいよ」

なんか何を話しても自慢にしか聞こえんくなってきて話しかけるのをやめようと思った。
別に羨むわけじゃないけど、あたしにとってはどうでもいい話でしかない。

溜息吐いて自分の世界に浸ろうとしたら「でもなぁ」と勝手に話し始めた。

「俺、真には興味津々やで」
「はぁ?」
「俺が一緒に帰る唯一の女の子は真だけやねんで」
「だから?」
「だから真も俺を特別に見てみてよ」

な?と首を傾げられて、ちょっとでもときめいたのは不覚だった。



――――その不覚のときめきがあたしと敦紀のはじまり。







【本編:以心伝心】


END.