咲楽はドアの隙間から顔だけを出して、川原の姿を探した。
「修くん、お待たせ。神宮寺さん、来た?」
 川原はいつもの笑顔で、首を振った。
「後5分ぐらいでこっちに着くって、連絡があったよ」
「なーんだ。まだ、緊張しなくても良いか。なんかさ、神宮寺さんといると緊張するんだよね」
「それが緊張してる態度か。ま、お前もたまには緊張くらいした方がいいと思うよ」
 川原にそう言われ、咲楽は少し不機嫌な顔になった。
「はい、そんな顔してないで、ちゃっちゃと下に行く!」
 咲楽は急かされながら、1階のロビーに向かった。
 二人がロビーについてから程なく、神宮寺の車がやってきた。
 いつもながらびしっとスーツを着こなした神宮寺は、二人の前に降り立つと、貴公子のように微笑んだ。
「遅れてすまない。飛行機が遅れていたんでな」
「別に良いですけど。俺、神宮寺さんには逆らえないし」
「良く言うよ。とりあえず、食事にでも行こう。今日、車は?」
「事務所の車は、帰しました」
 神宮寺の問いに答えたのは、川原だった。
「咲楽の車は?」
「危ない運転するからって、禁止令出されちゃったよ」
 唇をとがらせ、不機嫌そうに言う咲楽は、まるきり子供だった。
「食事の前に、紹介しておこう。星河」
 神宮寺は助手席にいた男を呼んだ。ゆっくりと神宮寺の隣へと歩いてきた男を見て、川原は驚いた。