数年ぶりに吸った日本の空気は、とても懐かしい感じがした。
 秀海は辺りを見回すと、溜息と共に歩き出す。
 やっぱり帰って来なきゃ良かったかも。
 わずかな後悔に首を振り、秀海は前を見て歩いていく。
 その先には、彼がここに帰ることを望み、決心させた男がいた。その男に向かって、秀海は小さく笑いかけた。
「おかえり、秀海」
 昔と少しも変わらない、彼の綺麗な微笑みに、秀海は泣きたいような気持ちになった。
 帰ってきたんだ。一度は逃げ出した場所へと。
 彼に促されて歩き出す瞬間、秀海は後ろを振り返ろうとしてやめた。
 もう何があっても、逃げ出さないと決めたから。
 過去に縛られて、後悔ばかりしていたくはないから。
 ふと隣の男を見ると、前だけを見つめる綺麗な瞳が見えた。
 自分もそうあるために、昨日までの自分をこの場所に置いていこう。
 秀海は、新しい自分に生まれ変わろうとしていた。