「昔、あの方の婚約者の国を、この国は見限った。そのことが、あの国が負けた原因なのかまでは……私も当時は若かったからわからないけれど、ウォル殿下の婚約者は、結果として別の方にもらわれていった」

静かな声で続ける王妃殿下の言葉に、どこか後悔のようなものを感じて手を握りしめる。

「先代の国王陛下の御代のことだけれど……それ以来、ウォル殿下は政治が絡む婚約を、ことごとく避け続けていらっしゃっるの」

でも、王族の婚姻は政治が絡むのは常識でしょう?

そして、血を繋ぐために王族の婚姻は早いもの。現国王も確か、20代の半ばには王妃殿下と婚姻を結んだはず。

身体が弱いとか……なにか問題でもない限り、ウォル殿下のように、30歳を目前にしてまで婚約者すらいないなんてことはない。

「姫を失えば、ウォル殿下はまた誰かを見つけようとはされないと、陛下はお考えです。そして、その原因を作る自分から、ウォル殿下は離れていくだろうと」

なんというか、話が重い。重すぎる。

絶対にこれ、単なる侯爵令嬢が判断できることじゃないし。

でもこれって“私がウォル殿下と結婚しないで、別の誰かを国王陛下に紹介されたら”の話だよね?

なら、話は簡単なんじゃない?

「私、ウォル殿下は嫌いじゃないですけれど?」

あっさりと告げたら、王妃殿下はパチクリと瞬きをした。