「ルドだと、よくわかりましたね?」

「殿下は、自分を“あのバカ”と呼ぶと、以前、本人から伺いました」

めちゃくちゃ軽薄な挨拶をされた記憶も新しい。

そして、とてつもなく嫌な顔をするウォル殿下も新鮮だ。

「あいつは乳兄弟でして……少し遠慮がないんです」

「そうですわね。乳兄弟だということも、しっかりおっしゃっていました」

ますます嫌な顔をした殿下は、溜め息をつくなり、私を無言で抱き上げて立ち上がる。

「殿下……?」

「少し落ち着いてください。あなたはケガ人なのだから」

そうやって運ばれていくと、私が囚われていたのは、誰かの古い屋敷の地下室だったとわかる。

「ところで、ここはどこなんですか?」

「城からそんなに離れていませんよ。元はカヌー伯爵家の屋敷のようですが、誰も住まなくなって10年以上は経つそうです」

ああ。本当に付け焼き刃な誘拐劇だったんだな。

慌てたついでに、自分のテリトリーに逃げ込むなんて底が浅い。

そう思っていると、見下ろしていたらしい殿下と目が合った。

「このまま城に連れて帰ります」

「え?」

「申し訳ないですが、強制です」

え? え? それってどういうこと?

ポカンとしながらも、真剣に宣言するウォル殿下から、待っていてくれたらしい近衛兵たちに視線を向ける。

そこには騎士団の知っている面子がたくさんいて、その中に、渋面の父上を見つけたけれど、何故かなにも言ってくれなかった。