「ノーラ⁉」

同時に聞こえたのは、今やすっかり耳に馴染んで、よく覚えている声だ。

朗らかにいつも微笑んでいて、時に低く甘く響く声。

ホッとして、思わず手を伸ばす。

「ウォル殿下……っ!」

「ご無事でしたか! ケガは……?」

あたたかい両手に抱きしめられて、私も力いっぱい抱きつく。

「大丈夫です。少し頭にコブがあるくらいで無事ですわ」

「それは無事とは言いません!」

怒鳴り返されて、妙に納得してしまった。

「ええと。それもそうですわね」

「ルドに任せるのではなかった。全く生きた心地がしませんでした」

「……それは、凄まじいですわね?」

「どうしてそんなに冷静なんですか!」

だって、いつも余裕綽々な殿下がこんなに慌てていたら、私も慌ててちゃいけないんじゃないかなって……。

母上も『殿方が慌てていたら、女は無理にでも落ち着いて、冷静に見極めなければいけません』って、教えてくれたし。

「……でも、そんなに冷静に見えますか?」

呟いたら、少し彼は身を離し、私を見下ろした。

「 失礼。全く冷静ではありませんね。怖かったでしょう」

濡れた頬をぬぐってくれながら、ウォル殿下は優しく微笑んでくれる。

なにが怖かったかって言ったら、いきなり巻き起こった阿鼻叫喚だけど、どんなバケモノがいるのかも不安で怖かった。

ボロボロと情けなくも涙が止まらなくて、慌てて彼の胸元に顔を隠す。