結果、着ていた防寒用の衣服を王女に着ていただいて薄着になったわけなんだけど、自分の体力を過信していたのもミスだよね。

「すみません」

「しばらくゆっくりと休むようにと、王弟殿下から直々に言われておる」

苦虫でも噛み潰したような父の顔は、何か言いたくても言えないときの表情だ。

黙って上目使いに見ていたら、眉間にしわが寄る。

「お前が口を開かんと、叱ることもできんじゃないか! どうして黙りこむ! いつものようにポンポン言い返してこんか!」

「だって、喉が痛い……」

ついでに、ケホッと小さい咳が出たとたん、兄上に背もたれにした枕を外され、すごい勢いで父上に押さえつけられる。

かろうじて頭をぶつけることはなかったけど、何をしてくれるんだ、あんたたち。

睨みつけようとしたら、それより先に母上がふたりの耳をわしっと引っ付かんだ。

「ノーラは病み上がりだと言っているんですよ! 何度言っても聞こえない耳でしたら取っておしまいなさい!」

「いたっ! いたたたエリーゼ! やめんか、お前、夫の耳を引きちぎるつもりか」

「必要とあらば。片耳がない騎士団長なんて、皆さんに怖れられてちょうどよいのではなくて?」

慈愛の女神かの如く微笑みを浮かべている母上は、候爵家で一番怖いって思うんだ。