「やっと微笑んでくださいましたね」

静かな声が耳に届いて、小首を傾げた。

「……はい?」

「ずっと、不安そうにされていましたから」

そう言われて、目を見開く。

舞踏会を怖がったわけじゃないけど、たくさんの人の前に行くのは嫌だった。

だって、あの娘は『大の男に暴力を振るった娘』だと、聞こえるように言う人や、裏にまわってこそこそと陰口を叩く人。

中には『近寄ると暴力をふるうか?』と、大人数で囲みながら嘲るように笑う人。

人によって様々だけど、そんな風にされるのは気分がいいものじゃない。

最初は気にしないようにしていても、まったく気にならないはずもなくて……。

目を伏せると、ゆっくりと動きが止まる。

しばらくそうしていたら、ウォル殿下はなにを思ったか、私を高く掲げるようにして持ち上げたからギョッとした。

足がぶらんとするし、バランスは保てないしで、慌てて彼の肩に捕まる。

「ウォ……ウォル殿下⁉ なにをなさいますか!」

「顔を上げてください。誰かになにか言われたとしても、その者に、あなたのなにがわかるというんです」

いや。それって、殿下にも当てはまる気がする。

あなたに私のなにがわかるんだ。