「あー……ともかく、ノーラ。お前はこの私の娘として、よくぞ王家の方々の御身をお守りした。王家の盾であり、剣であれと育てたことに悔いはない」

母上に睨まれているからか、父上は髭もじゃの厳つい顔を一生懸命真顔にしている。

「しかし、お前はフォレシティオ候爵家の娘でもあるのだ。嫁入り前の娘でもある。無茶はするな」

「いえ。あそこまでとは思わなくて……」

兄上の騎士仲間のひとりが、王女が城からいなくなったと知らせに来たのは吹雪がひどくなり始めた夕方頃だった。

屋敷にいた私が兄上に伝言を頼まれ、この天候に少しでも人が多い方がいいはずだと捜しに行くときに、好き好んで薄着をしたわけじゃない。

一応、普段着のドレスの上に毛糸の肩掛けや毛皮を身につけて、ブーツもしっかり履いた。

ただ、世間知らずの幼い王女には通じなかったと言うか。

遠い目をしながら、あの日の夜のことを思い出す。

王家特有の、黄金の髪の少女を見つけたとき、風もピューピュー吹き込むような、みすぼらしい掘っ立て小屋で、絹のドレスに少し厚手のマントを身につけただけとは思ってなかったんだ。

10歳の女の子の思考はなんとなくわかるけど、吹雪に外に出るつもりで、その格好はないだろうと愕然とした。

でも、外出するにも人に守られ続ける王女様は、真冬の外気に絶えられるだけの装備は思い付かなかったんだろう。

これは、他に防寒用のものを持っていかなかった私のミスだ。