「先程の言葉から、ウォル殿下が私に囲い込みをかけているのがわかりました。でも、不思議なんですわ」

「なにがでしょう?」

「私と殿下の接点なんて、まるでないからです。うちは侯爵家ですが、父親の性格からして、政治的な思惑が絡んでくるとは思いませんし」

ウォル殿下はグラスをテーブルに置き、しばらく考えるように視線を逸らす。

それから戻ってきた時には、優しそうな笑みを浮かべていた。

「幼少の時に婚約者だった王女が他国に嫁いでから、私の結婚に政治を巻き込むのは許しておりません」

許しておりませんって言っても、王族の結婚には少なからず関わってくるんじゃないの?

「……凡庸で、結婚相手もいない身軽な王弟は都合がいいですよ。王弟という、危うい立場を利用したい輩からのお誘いが多いですし、内情を探るのも得意になりました」

「それはそれでいかがなものかと思うんですが。さっきから、サラサラと、なにげなく真っ黒いこと言っていませんか?」

「知ってもらおうかと考えてます。下手に政治が絡んだ娘を娶るつもりはない。このまま未婚でもいいかと思っていたところだったんですが、私はあなたを見つけた」

……私を見つけた?

「いや。少し語弊があるかもしれませんね。あの雪の夜、凍えながらも力強いエメラルドの瞳に射抜かれた、と言う方が正解でしょう」

あの雪の夜。たぶん、王女様が逃亡した夜の話をしているんだろうけど、そんなに劇的な出会いじゃなかったと思うんだ。

私は寒くてブルブル震えていたし、鼻水もすすっていた気がするもん。