「私以上に、ウォル殿下が注目の的でしたのね」

「そうですね。私も頻繁に夜会には参加しませんから、たまに表に出るとあんな感じです。今回はそれだけでもありませんでしたが」

ニコニコと話すようなことじゃないと思うんですけどね。

「ではノーラ。乾杯しましょうか」

「乾杯ですか? いいですけど、なにに乾杯されるおつもりですか?」

言いながら、鼻歌でも歌いだしそうなウォル殿下のグラスにカチンとグラスを合わせる。

「あんなに大勢の前で、私を愛称で呼んでくださいましたし」

……ん?

「私はあなたをノーラと呼び、あなたは私をウォル殿下と呼んだ。私を愛称で呼ぶのは兄上しかおりません。いい感じに注目も浴びていましたし、かなりの噂になるでしょうね」

すました顔でグラスを傾けるウォル殿下に、あんぐりと口を開けた。

まさかこれ、謀られたって言うんじゃないの?

「あざといですわね……」

「求婚しているのに、素で保留にしてくださる侯爵令嬢にはかないません」

爽やかに言われて、返答に詰まってしまった。

だって、色々と突然すぎてついていけなかったんだもの。

ぼんやりとグラスに口をつけると、熟した果実の香りとワイン特有の甘さが広がった。

コクコクと半分くらい飲んでから、なにか言わなくてはと口を開く。

「……飲みやすいですね」

ゆったりと寛いでいるウォル殿下を見つめた。

「なにか、話があるのではなかったのですか?」

いい機会だから聞いてしまおうか。

そう思ったのはお酒の力を借りての思惑。