考えているうちに、ウォル殿下が目の前に立ち、私の手を取る。

「どうかしましたか?」

どうもしませんよ! どうかしてるのはウォル殿下の方じゃないの?

実際、エミリアたちは人の背後でクスクス笑ってるけど、人によっちゃ、殿下の笑顔にギョッとしてるし。

普段があの冷たい無表情っていうなら、目の前のキラキラ笑顔ってなんなんだろう。

その笑みが、ちょっとからかうように変化する。

スッと屈んできたかと思うと、耳もとで低い声が響いた。

「寂しかったですか?」

吹き込まれた吐息がくすぐったくて、それ以上に近すぎる体温に固まった瞬間、身体中の血が沸騰したみたいに身体中が熱くなった。

バッと淑女らしくない身のこなしで殿下から離れると、囁かれた耳を押さえて彼を睨む。

「な、なな、なにをなさるんですかっ!」

実際、なにかされたわけじゃないけど、未婚の乙女の耳に、なんてことをしやがる!

口が悪くなりかけたけど、かろうじて心のなかで叫んだ。

でも、バクバクと心臓が飛び出してきそうだし、エミリアたちは祈るように手を組んで、満面の笑みでか細い悲鳴をあげてるし、真っ赤なドレスのミレーユ公爵令嬢があっちで鬼の形相をしているし……!

たくさんの好奇の視線を浴びて、パニックになりかける。

こういう時の対処方法なんて知らない。

めちゃめちゃ慌てていたら、ウォル殿下はとてもいい笑顔で首を傾げた。

「どうしてあなたは、そんなに可愛らしいんでしょう?」

あなたはまわりをみているのか──!