離れているけれど、私の真っ正面にウォル殿下は立っている。

談笑しているまわりの人は変わらない。男性ばかりの集まりのはず……だけど、その中に真っ赤なドレスの令嬢を見つけた。

「噂の公爵令嬢のお出ましね。まだ諦めていなかったのかしら」

「……あらあら、確かあの方、来春、タリス公爵家の嫡男と結婚されるのではなかった?」

真っ赤なドレスに亜麻色の髪。間違いでなければミレーユ公爵令嬢のマリエッタだ。

社交界デビューは同時期だから、よく知っている。

いつも派手に着飾って、多くの男性を取り巻きにしていたよねってイメージ。

ここからでも、一生懸命ウォル殿下に話しかけているのがよくわかる。

そして、ウォル殿下はそんな彼女を、見たこともない冷たい表情で眺めていた。

エミリアがこっそりと耳打ちしてくれる。

「あれが普段の王弟殿下よ」

あの表情は見たことあるなぁ。

以前、カヌー伯爵家の次男坊に、あんな冷え冷えとした雰囲気を向けていた。

しばらく彼は公爵令嬢を見下ろしていたけど、なにを思ったか、いきなりこちらを向くからパチリと目が合う。

途端に、ふわりと表情が和らいだ。

「氷が溶けましたわ!」

「まさに一瞬でしたわ!」

「あら、こちらへ向かってきてますわ!」

きゃあきゃあ騒いでいるエミリアたちに、何故かぐいぐい押されながら、ウォル殿下がにこやかに近づいくるのを見つめた。


……視線って、いつ逸らせばいいんだろう。