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どうにか深緑のドレスで居間に向かうと、そこには誰もいなかった。

「王弟殿下は、旦那様がロングギャラリーにお誘いされまして、そちらに向かわれましたよ」

「え。あんなとこに?」

そこにいた執事の言葉に、顔をしかめる。

ロングギャラリーなんて行ってどうするんだろ。

いかついご先祖様の肖像画があるだけで、王弟殿下に見てもらうような芸術品はないと思うんだけど……。

不思議に思いながらロングギャラリーに行くと、ボサボサ頭の父上の隣に、黄金色の髪をした長身の後ろ姿が見えた。

王族の髪って、どうして遠目にもあんなに光沢のある金髪なんだろうな。

雪が溶けた春の祭りには、必ず王族が城のバルコニーに立って挨拶をするから、あの色は幼い頃から記憶にある。

この国に住む人で、知らない人も少ないんだろうなぁ。

昔は赤毛が嫌で、金色の髪に憧れていた気もする。

そして、ゆっくりとふたりに近づきながら、王弟殿下の後ろ姿を眺めた。

ちょっと癖のある柔らかそうな黄金。大男の父上にも負けてない身長は、たぶん190センチはあるよね。

近衛兵団の黒い制服の腕には、団長である証の金竜の刺繍。

ふっと彼は振り返り、私を見つけると彼は少しだけ困ったような表情を浮かべた。

王族は皆美形って噂に聞くけど……王弟殿下って、無駄に整った顔をしてる。