「え? 何? クーとベタベタしたいのか?」
「だって、いつも真面目でそっけないんだもの~~」
 マキセの腕につかまり、ぶんぶん振り回しているのは、テニトラニスの王女であるセーラ。
 彼なら平気で触れるのに、相手がクーデノムだと何となく遠慮してしまう。
 一応、婚約者なのに。
 クスイ国の文官であるクーデノム=ガディと武官であるマキセ=トランタはクスイ王の命令で遊学中。
 途中に知り合ったテニトラニスの王女と王に気に入られ、テニトラニスに留学として身を寄せていた。
 セーラ姫の猛アタックで、周囲からも認められる婚約者としての立場にいるのに、姫としては不満のようだ。
「……なら、朝、クーを起こしに行ってみれば?」
「朝?」
「そう。クーは寝起きが悪いからな。あの真面目な近寄りがたい雰囲気も、朝はなくなっているから」
 マキセに言われた通り翌日の朝、いつもより早く起きたセーラはクーデノムの寝室へと気付かれないように忍び込んだ。