5人で夕食を食べている時も、祐介は優馬のことを考えていた。

俺は家族とそんなに馴染めてないのに、なんでこいつは俺以上に家族の輪に入れてんだ?


和気あいあいというか妹にまで媚び売ろうとしている。

こいつのコミュニケーション能力は凄いと思うけど、いまいち俺は心の底から優馬を好きになれない。

黙りこくってご飯を食べる祐介の異変に気づいた母親が一言。

「祐介、さっきからどうしたの?黙りこくっちゃって。どっか具合でも悪いの?」
「いや、あんまり食欲ないんだ。ご馳走様」

祐介は、箸を置いて2階へ行こうとする。すると当然優馬も立ち上がる。
「すいません、僕もお手伝いしたいんですけど、今日は祐介と一緒にいるって決めてるので。お先に、ご馳走様でした」
「はあ...」

2階に行ってしまった2人を、3人で目を合わせていた。
「なんだ、あの2人なんかあるのか?」
「さあ、知らない」
妹の美香も困った顔をしている。

「まあ、仲良しなのはイイんだけど。間違った方向にいかなければいいんだけど」
「間違った方向ってなんだ?」
「BLってこと」

「なんだそりゃ?」
「男同士で愛することだよ」

お茶を飲んでいた父親は。
「ぶーっ!ゲホッゲホッ」
お茶を吹き出した。

「お父さん汚い」
「美香がおかしなこと言うからだ」

「あの2人注意してた方がいいと思うよ、お母さん」
「そうね」

下でこんな会話をしてるとは知らない2人。

「優馬!お前なんなの?俺の家族ぶち壊したいのかよ?」
「別に僕はそんなつもりじゃ」
「俺以上に、家族と和気あいあいしなくていいんだよ」

「僕は、今日は本当に祐介と一緒にいたいだけなんだ。別に変なこと考えてないから安心してよ」
「そういうこと言う自体がおかしいだろ?」

「僕のこと分かってくれないんだね。じゃ今から一緒にお風呂入ろう!」
「えっ、お前ちょっと、大丈夫か?」

優馬はさっさとお風呂に入る準備をしている。
「なにしてんの?祐介も準備して?もしかして僕と裸のつきあいになるの恥ずかしいの?」
「バカ!俺達夫婦じゃねえんだから。一緒に入らなくたっていいだろ、別に」
「ダメ!もう決定事項だから。準備しないと1枚ずつ脱がせちゃうからな」


「マジかよ、面倒くせえ」
渋々支度を始める祐介。

「綺麗に洗ってあげるよ。前も後ろも」
「いいって!」

2人で階段を降りて、リビングにいる家族に声をかける優馬。

「あのう、皆さんお先に僕達お風呂いただきますね」
「えっ、ああ、どうぞ」

皆んな目が点になっている。
「ほら、やっぱり!その路線なんじゃないの」
「なんか怪しいわね」
「私知らない。バイバイー」
「美香!ちょっと」

「あなた、どうする?」
「どうするってお風呂に入ったところを連れてくるわけにはいかんだろ」
「そりゃそうなんだけど」
両親や美香も変な空気になってきた。

お風呂場で。
「祐介!お前鍛えられたいい筋肉してるなあ」
背中から触ってくる優馬。
「お前やめろ!気持ちわりい」

祐介は本気で怒った。
「そんな怒らなくてもいいじゃん!」
「もういい、俺でるから」

祐介は、タオルで頭を拭いてると。
トントン。
「ちょっと、お兄ちゃん大丈夫?ねえ」
「美香!今入んなよ。素っ裸なんだから」
「うん」

「いいぞ」
ドアを開けて脱衣所へ入る美香。

「お兄ちゃん、なにがあったの?」
美香は祐介の両腕を掴む。
「別に大丈夫だから」

そこへ、お風呂から上がったばかりの優馬が出てきた。
「きゃあ!」
とっさに祐介は美香を抱きしめた。

「俺の胸に顔をうずめてろ」
「うん」

美香もドキドキしていた。上半身裸の兄の胸に顔ををうずめるなんて初めてのことだから。

「優馬、早くバスタオル巻けよ。美香がいるんだから」
「ああ」

優馬がバスタオルを巻くと。
「もう、こんなお兄ちゃん嫌い!」
美香は祐介の胸をすり抜けて脱衣所から泣きながら出て行く。

「美香...ごめん。こんなお兄ちゃんで。全部お前のせいだ!優馬。美香のことどうしてくれんだよ、大事な妹なんだぞ」
「ほんと、ごめん」

脱衣所を出て、部屋に戻る。
「今日は、もうお前と寝ないからな」
「えっ、そんなのやだよ」
「お前よくそんなこと言えるな。俺は美香の方が大事だ」

祐介は、制服とカバンを持って美香の部屋へ行こうとする。
「祐介、どこ行くんだよ?」
「美香の部屋に決まってんだろ。お前は俺のベッドで勝手に寝てろ」

バタン。優馬の顔の前でドアが閉まった。
「そんな。僕はどうしたらいいんだよ...祐介と一緒に寝れると思ったのに...」
と今にも泣きそうな優馬だった。