「私はお姉ちゃんのほうが上だと思ってたよ。

他の人たちに何言われても私にとってお姉ちゃんはいつも“目標”だった。


私はあのとき自分を甘く見てた。

ここでステップやれるんじゃないかって。

プログラムに入ってないのに。

しかも、もうそろそろ加点がないと表彰台に立てないっていうプレッシャーもあった。

今はさ、本当になんであそこでやったんだろうと思ってる。

あの場面でステップやらなければ今でも多分、バレエをやれてた。

あのときすぐにバレエをやめたのはただ自分の置かれた状況から逃げるため。

逃げるためにいろんな男と付き合って、

結婚もして、菜々子を産んで…。

幸せだった。


ううん。

ずっとそう思っていたかった。

でも結局、逃げ切れていなかった。

あのときの後悔にずっと縛られている。

でもね、あるときにだけ自分の後悔が和らぐときがあるんだ。


お姉ちゃん…わかる?」


そう言った若菜さんの目は真っ直ぐ明梨さんを向いていた。

明梨さんも彼女の目をしっかりと見つめていた。