「ありがとね」

ふいに、彼女は言った。

「何が?」

「今日、私のこと誘ってくれて。
これでもう、思い残すことはない」

そう言う彼女の横顔は月明かりに照らされていて、涙が静かに光っていた。

「そっか…。
堀野、病気のこと黙っててごめん。

心配掛けたくなかったからさ…」

「知れてよかったと思ってるよ、私は。だって青井君のこと、またいっぱい知ることができたんだよ。

あとそれと、アイドルやるんだってね。
華ちゃんに聞いたけど」

「やるよ!

やっと、自分の夢を叶えられるチャンスが来たんだもん。
俺は、証明してみせるよ。性同一性障害という『壁』がある人でも『輝けるんだ』って」

力強く彼は、言った。