藤沢さんの秘書にもらったメモを確認し、連絡を入れる。

相手はフリーのヘアメイクの専門家で、当日ヘアメイクをしてくれる人である、
スタイリストではないから、と謙遜するも、1人では心細かったので、
とてもありがたく感じていた。

「私は須藤京子」

メイクの専門家だけあって、メイクはばっちり決まっており、
指先のネイルもすごく綺麗だった。

さばさばした性格と、フリーでやっていけるだけの対人スキルを持つ
京子さんは、女性としても魅力的で、
メイクの話などすっかり打ち解けてしまった。

東京に出てきてから、仕事ばかりで、友達という友達もいず、
社内でも交流が希薄なので、こういった時間は貴重で、とても充実していた。

「これなんかどう?」

勧められたのは、2センチぐらいのヒールの白い靴、
パーティに着ていくドレスは、若々しさを感じるドレスなので、
色もとっても合っており、試着して、気に入り買おうとする。

すると、京子さんがあわてて止めに入る、
また来ますね、と店員に告げ、店を後にする。

予想外の行動にびっくりしていると、喫茶店へ連れ込まれる。

「ごめんなさいね」

アイスティをかきませながら、いきなり謝られたので、びっくりする。

「本当は黙っているよう言われたんだけど・・・」

と告げられたのは、

靴は買わなくても、本当は藤沢さんはちゃんと用意してくれていて、
靴をあえて渡さず、10万円以上の靴を勧めて欲しいと頼まれていたらしい、
参加する人のリストも、嫌がらせ。

「リストどう思った?」

「そうね、映画の主人公なら完璧に覚えたかもしれないけど私は無理ね、
ただ、仕事関連の人だし、少しでも知っておけば、
今後の仕事に役立かもしれないし、出来るだけ目を通すつもりよ」

そう告げると、京子さんはアイスティを更にかき混ぜる、
氷がカランと音を立てた。

「靴、同じようなのが3万ぐらいであるの、素材や作りは全然違うど、
1日だけだし、それでもいいと思うわ」

そう提案してくれる京子さんに、笑顔で首を振る。

「さっきの白い靴にするわ」

「12万よ?」

京子さんは本気で驚いているようだった。

確かに12万の靴は高いと思う、釣り合うか試されているのかもしれない。

それでも、私の心にあるのは、前のデートでプレゼントされた、
86万のネックレスだった、

パーティの練習の為の食事で、あんなネックレスをプレゼントされ、
ここで逃げる事はできない。

「直哉さんの事、本気で好きなのね」

そうゆう訳ではないが、ネックレスの事はさすがに話せず、笑ってごまかす。

何かあったら絶対力になるから、当日のヘアメイクは任せて!

と心強い味方を手に入れ、12万の靴を買い、アパートに戻った。