諦めるって言葉で言うのは簡単だけど、実際は難しくて、日々、もどかしい思いを抱えながら過ごしている。

ただの同期でいようとしているけど、優しくされると気持ちが揺らぐ。
これっぽっちも望みはないのに。

無駄に優しさを振りまかないで欲しい。
まぁ、その優しさに惹かれたんだけど……。

「麻里奈、しんどかったね。泣きたくなったらいつでも胸は貸すから」

カウンターに頬をつけていると、唯香ちゃんは優しく頭を撫でてくれる。
その心地よさに目を閉じる。

「ありがと。泣くときはその豊満な胸に顔を埋めるね」

笑いながら言うと「ちょっと嫌味でしょ!」と肩を軽く小突かれた。

不意にコトッと私の目の前にカクテルグラスが置かれた。
えっ?
私、注文していないんだけど。

ゆっくりと顔を上げると、唯香ちゃんの彼氏でこのバーのオーナー兼バーテンダーの朔斗さんが穏やかな笑顔を浮かべていた。

「カカオフィズです」

「カカオフィズ?」

初めて聞くカクテルの名前に首を傾げる。

「カクテルにも花言葉のようにカクテル言葉というものがあるんです。カカオフィズには『恋する胸の痛み』という意味があると言われています」

その言葉を聞いて唯香ちゃんは意味ありげな視線を朔斗さんに向ける。

「話が聞こえてしまったので」と前置きして朔斗さんは再び口を開いた。