「あれ、麻里奈ちゃん。帰ったんじゃなかったっけ?なにか忘れ物?」
「はい、スマホを忘れちゃって」
会社に戻ると私に気付いた町田さんが声をかけてくれる。
さっき私が帰る前と残業しているメンバーは変わっていない。
新庄くんは席を外しているのか、フロア内には見当たらない。
私的にはちょうど良かったけど。
自分の席に向かうと、案の定、机の隅にスマホが置いてある。
それをバッグにしまい、もう一度残業している人たちに声をかけた。
「お先に失礼します」
「気を付けて帰りなよ」
町田さんはヒラヒラと手を振ってくれ、今泉部長も電話中なのに私に向かって手をあげてくれた。
会社を出て少し歩いていたら、背後から私の名前を呼ぶ声が耳に届いた。
「桜井、待って」
振り返ると、なぜか新庄くんが私を追いかけてきていた。
「どうしたの?」
「いや、町田さんが桜井が忘れ物を取りに来たって言ってたから」
それで、どうして私を呼び止めたんだろう。
不思議に思っていると、新庄くんは申し訳なさそうに目を伏せる。
「さっきは悪かったな」
「えっ?」
なんのことか分からず、首を傾げる。
「だから、風船が勿体ないとか不器用とか言って悪かった」
ガバッと頭を下げ、私はまさかの謝罪に面食らう。
「別に気にしてないから」
そんなことで謝ってもらうとか、なんだかくすぐったい。



