「風船上手く出来そう?」

「ビビりだから思うように出来ないけどなんとか頑張ります。しかも、今回イベントは初参加なのですごくプレッシャーを感じてます」

会社を出て、世間話をしながら駅まで向かう。

「そっか。私はいつも雑用で参加してたからね。イベントはお客さんがたくさん来るから大変だけど楽しいよ」

「私は主に子供相手なので上手く接することが出来るかドキドキです」

「子供は素直で思ったことをすぐ口にするからね。可愛いけど平気で毒をはくし。去年、私はおばちゃんて言われたんだよ。確かに結婚してたけど、まだ二十代なのに」

失礼しちゃうわ、なんて口を尖らせている。

「暴言には要注意ですね」

「そうそう。言われても気にしないことだね。あの時、私はスルースキルを身に着けたわ。聞き流すのが一番よ」

北見さんのアドバイスに耳を傾けながら、何気なくバッグを漁っていたらスマホがないことに気付いた。
きっと、机の上だ。

「北見さん、スマホを忘れたので取りに戻ります」

「じゃあ、私も一緒に戻るよ」

「いえ、それは申し訳ないので先に帰ってください」

「別に構わないよ」

「私が構うので」

会社に戻るのに先輩を道連れとかあり得ない。
なんとか引き下がらずにいたら折れてくれた。

「そこまで言うなら先に帰るね」

「スミマセン。では、失礼します」

軽く頭を下げて来た道を足早に戻る。