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あれから二週間が経った水曜日の午後。
伝票整理をしていたら元気な声と共に会社のドアが開いた。
「まいどー。麻里奈ちゃん、お土産」
私の名前を呼び小さなキャラメルの箱と紙袋を差し出してきたのは花田園芸の社長さん。
確か六十代前半でうちの社長よりも年上、恰幅がいい花田社長。
失礼だけどおじいちゃんという感じの人だ。
うちの社長とは長年の付き合いで、気心知れた仲だ。
花田社長は、毎回なにかしらのお菓子の差し入れを持ってきてくれる。
甘いものが大好きで、よく奥さんに食べ過ぎを注意されているらしい。
今日はイベントに向けての打ち合わせがあり、来社して早々に私に声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
「あら、花田社長!麻里奈ちゃんだけずるいじゃないですか」
太田さんが冗談交じりに拗ねた表情をする。
その言葉に反応した花田社長が私の肩をポンと叩きながら豪快に笑う。
「そりゃあ、麻里奈ちゃんは孫みたいなもんだからつい贔屓してしまうんだよ」
「社長!数年前に孫みたいな存在だった私の分はありますか?」
北見さんが笑いながら花田社長に声をかける。
私が入社する前、北見さんが花田社長の孫のポジションだったと太田さんが教えてくれた。
新しい子が入社してくるたびに、孫のポジションチェンジが行われるのが恒例らしい。



