嘘をつく唇に優しいキスを


こんな強引な態度の新庄くんは初めてで戸惑いを隠せない。
どうしてこんなことをするんだろう。

黙って歩いていたら、コインパーキングに入っていく。

「乗って」

助手席のドアを開け、乗るように促される。
乗ってって新庄くんは運転するつもりなの?

「いや、あの、飲酒……」

「今日はノンアルだったから、酒は一滴も飲んでない」

「えっ、新庄くんお酒好きなのに?」

いつもお酒を飲む時は電車で通勤してたはず。
今日に限ってお酒は一滴も飲んでないってどういうことなんだろう。

「そんなことはいいから早く乗れって」

なかなか乗ろうとしない私を押し込むようにして車に乗せる。
私は反射的にシートベルトに手を伸ばしていた。

エンジンをかけ、ゆっくりと車が走り出す。
新庄くんの車に乗るのはいつぶりだろう。

彼女がいると分かった日から、隣に乗ってはいけない気がして避けていたところがあった。
残業した時「送ってやる」と言われたけど、何とか理由をつけて断っていた。

それがこんな形でまた新庄くんの車に乗ることになるなんて思ってもいなかった。

カーオーディオから流れてきた音楽は、少し前に流行った男性アーティストのラブソングだった。
今の私には不似合いの曲だ。

はぁ、と気付かれないようにため息を吐く。
新庄くんへの気持ちの整理をしたかったのに……。