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仕事を終え、会社近くの居酒屋『久兵衛』で飲み会が始まった。
社長の行きつけの居酒屋でお酒の種類も多く、料理も美味しいと評判だ。
テーブル席、カウンター席はもちろん個室も完備されている。
個室は全席扉付きで、少人数の個室や団体用の大広間の個室もある。
社長の挨拶の後、乾杯の声にみんなグラスをカチンと合わせる。
貸し切りの大広間は賑やかな声があちこちで飛び交っている。
今日は飲み放題のコースで、男性陣は一杯目を飲み終わると早々と次のお酒の注文をしていた。
「麻里奈ちゃん、最近どう?いい恋してるかい?」
飲み会が始まって三十分が経った頃、私のお母さん世代の太田さんが焼き鳥の串を食べながら聞いてきた。
お酒が入り、頬がほんのり赤くなっている。
「あ、いや……」
なんて言ったらいいのか分からず、言葉に詰まる。
恋はしているけど、私は望みのない恋。
ホントなら諦めないといけない恋だ。
「その様子だとしてないんだね。そうだ!麻里奈ちゃん、出会いがないなら紹介してあげようか?」
グイグイくる太田さんに圧倒され、困惑してしまう。
「あー、太田さんのお節介が始まった」
呆れたように口を挟んできたのは先輩の北見理恵さん。
北見さんは女子社員の中で私と一番年齢が近く、二十八歳の既婚者だ。
姉御肌でよく相談に乗ってくれている。



