私は、そっと立ち上がり、
キッチンとこの部屋を仕切る引き戸に寄った。

すりガラスのそれには、ただぼんやり、
このアパートの部屋への入口が浮かんで見えた。


「先輩、何かテーブルを拭くものってありますか?」

ドア越しに聞いてみる。

さんざん最初にキッチンには入らないように言われたのだ。

「あ、今、持っていく」

短くそっけない返事のすぐあと、
これまたそっけなく引き戸があき、白い布巾だけが手渡された。

私はそれを受け取り、さっき片付けたテーブルの上を拭いた。

そして再び迷った挙句、食器棚を開け、そして閉めた。


「あ、ちょうどよかった。コップとフォークと皿、出しといて。」


静かに引き戸を開け、コトン、と白い湯気に包まれた白い皿をテーブルに置いた先輩に声をかけられた。


「あ、どれを使います?」


食器棚の中には、一人暮らしのはずなのに、コップだけで6つほど並んでいた。

皿も箸もそれなりに個数が揃っている。


「俺は、これ。実紅ちゃんは、好きなの使っていいけど」

そう言って先輩は私の背後から透明で少し背の高いグラスを選んだ。


そして「あ、これにすれば?」ともう一つ私のグラスも結局は先輩が選んだ。

白い桜の花びらが5枚描かれた透明のグラスだった。

私は、迷わずそのグラスを選び、コップたちの隣に重ねてあった皿を2枚取り出した。