私が乗ろうと思っていた電車はすでに停まっていた。
比較的空いていそうな車両に見当をつけ乗り込む。
1人分空いたシートを見つけ腰を下ろした。
あれ?あの人、見おぼえが・・・。
同じ車両の私が乗った方とは対角線にあるドアの方に立っている人の顔を見る。
視線を感じてか、その人はイヤフォンを挿したケータイの画面から顔を上げ、私の方に視線を向ける。
そして、目が合う。
彼との直線距離はわずかに2メートル。
彼はイヤフォンをはずし、肩にコードをのせたまま私の方へゆっくり歩いてきた。
「おつかれさまです」
私は座ったまま軽く会釈をする。
「こんな時間まで何してたの?」
私のほぼ正面で立ち止まり、先輩は私に尋ねる。
「友達とごはんを食べてました。
先輩はどうしたんですか?」
「俺?俺はバイト帰り。
今日は9時までだったから。」
「先輩ってこのへんでバイトしてるんですか?」
「うん。駅ビルの中華料理店で」
そこでいったん会話が途切れた。
私は先輩のこと知らなすぎる。
車内アナウンスが流れ、電車が動き始める。
気づかない間に、電車の中の人口密度は上がっていた。
先輩はつり革につかまり、窓の外を眺めているように見えた。

