幸せの静寂

 中央病院に私はいた。ここに来るのは本当に久しぶりだ。私がバレーボールを出来なくなった原因の怪我をおったときに、治療してもらった病院なのだから。
 「あの、国見英一の病室はどこですか?」
 私は思い出したのだ。この病院に入院しているときに、国見英一と書かれた病室があったことを。
受付の人に病室を教えてもらい、早速エレベーターに乗り込んだ。
 本来なら、他人事であるから、私が今からしようとしているのは、ただのお節介だ。それでも、伊吹さん達が少しでも楽になるのなら・・
そうやって心を落ち着かせていると、目的地についた。国見英一と書かれた病室の前で、一度深呼吸をして、入室した。
「国見さん、はじめまして。南雲冬香といいます」
寝台の上から私を訝しげに見る国見さんは成人男性には見えないほど痩せていた。目に生気がない。そこで、私は直感で感じ取った。ああ、この人も昔の私と同じだと。
「私は、伊吹さんの後輩で、バレーボール部のマネージャーをしています」
「リンの・・?」
「今日は、国見さんにお話があってきました」
「・・・俺は、あんたと話す事なんかない」
国見さんは私への姿勢を一向に崩さない。誰も信じていない目をしている。こういう人は、他人の話なんか聞こうとしないのは分かっているので、私は国見さんを無視して話を続ける。
「いい加減に目を覚まして、周りをみてください。国見さんのために頑張っている伊吹さん達をきちんとみてください。そんなところで打ちひしがれていないで。怖くて不安を感じているのは国見さんだけではないんですっ」
「知ったような口を聞きやがって・・・あんたに俺の何がわかるってんだ!」
「私だからこそ!わかるんですっ」
その言葉に、国見さんは私を凝視した。
「あんたも・・?」
「はい」
 そのとき、突然ドアが開いた。
「あ、れ?あなたは確か、バレーボール部のマネージャーさん・・だよね?」
伊吹さんが国見さんのお見舞いにやってきたのだろう。