幸せの静寂

「真澄…」
美希は伸ばしかけた手を引っ込めた。
「何で、何で、責めないの⁉碧がよろめいたのは私のせいなんなんだよ?だから、冬香が…」
「知ってる。」
碧は真澄の言葉を遮るように語気を強めた。
「私は、真澄とぶつかってよろめいたけど、私がよろめかなかったら冬香が階段から落ちることはなかった。怪我もすることはなかった。だから、ずっと自分を責めてた。でもね、違うんだよ。あの日の出来事に誰が悪いとか、そんなことはなかった。まぁ、強いて言うなら…皆が悪かった、ってことかな。」
「それって、どういうこと?」
今度は美希が答えた。
「つまり、私と碧は真澄が助けて欲しいのに助けてって言えないときに、気づいてあげられなかった。そのせいで、真澄の心が壊れた。真澄は、私たちを頼らずに一人で抱え込みすぎた。そのせいで、私たち四人に亀裂が入る原因になった。冬香は、真澄の心の弱さに気づいてあげられていたのに、真澄の心に踏み込まなかった。って、いうところでしょ?冬香。」
「うん。あの頃は皆、色々な面で未熟だったんだよ。だから、友達に迷惑はかけられないって皆が遠慮してたんだと思う。でもね、今は違う。皆、何かしらの出会いがあって変わったことがあると思うの。だから、皆、この場に来てくれたんじゃないの?ねぇ、真澄。今の私たちの四人ならどんなことがあっても怖くないって思っているのって、私たちの三人だけかな?真澄はそう思わない?」
真澄は、肩を小刻みに震わせながらうつむいている。
「……う。」
「もっと、大きな声で言わないと分からないよ。」
美希が優しく話しかけると、真澄は正面を私たちを見た。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で。
「思う!!うぅ。」
真澄の両目からとめどなく涙が溢れる。
「…ハンカチ。鼻水、出てるよ…」
碧がハンカチを差し出すと真澄が碧に勢いよく抱きついた。
「碧ぃぃぃ」
「な…なに。ちょっと、汚いから、抱きつかないで!あぁ!ユニフォームがぁぁ」
「大泣きの真澄に慌ててる碧…レアすぎじゃない⁉」
「…美希。そんなに写真を撮ってたら碧に殺されるよ。」
「え、じゃぁ、要らないの?」
「は?いるに決まってんじゃん。」
「即答じゃん…」
「美希ぃぃぃ、冬香ぁぁぁ」
「うわ⁉こっちに来た!あ、碧が死んでる…というか、いい加減泣き止みなよ⁉」
「あはは。阿鼻叫喚~」
「あっ冬香!一人だけ逃げるなぁ!」
ギャーギャーギャーギャー言い合っていると、聞きなれた声が聞こえた。
「南雲さーん。」
「あっ、巫君。」
「え?冬香も彼氏がいるの?」
ぐちゃぐちゃのユニホームをハンカチで拭いていると、同じ動作をしている美希が話しかけてきた。
「違う違う。チームメイトだよ。で、どうしたの?」
美希と真澄と復活した碧が疑わしい目で見ているのは気にしない。
「そろそろ、ミーティングが始まるから。」
「あ、もうそんな時間か。じゃぁ、また今度だね。」
「「「うん!また、今度!」」」
私たちは笑い合って手を振った。