幸せの静寂

 私たちの関係は良くなるどころか、亀裂が大きくなるばかりだった。それに対し、私のバレーボール生活は順調で、とうとうキャプテン兼エースにまで登り詰めた。そのことは本当に本当に嬉しかったが、やっぱり気分は晴れなかった。
 
 今の時期は一年に一度の大イベント、全国中学校体育大会、略して全中に向けて猛練習をしている。今日も練習をするために、部室(二階建ての別棟にある、二階の南側の部屋)で着替えようとして部室に行くと、階段の上から着替え終わった真澄たちが降りて来るところだった。私たちは、何も話すことがないまま通り過ぎようとした。だが、中央よりに歩いていた真澄の肩が私の肩とぶつかった。私は体勢を立て直そうとすると、よろめいた真澄が後ろにいた碧にぶつかり、そのまま体勢を崩した碧が私にぶつかってきた。
「あ……」世界が歪んだ。手を伸ばした先には、私に手を伸ばした状態の真澄がいた。
 
 私が、目を覚まして一番最初に見たものは白い天井。隣にはうつむきかげんの母親がいた。
「…お…母さん…?」
「っ…冬香!?あぁ、良かった…今、先生を呼んでくるからね。」母親はそう言うと、駆け足で病室を出ていった。
私は、少し考えた。
(あれ…私、なんで病院に……頭に包帯が…あ、階段から落ちて…)そこまで考えたが、激しい痛みに思考を遮断された。
「っ…足がっ」何事かと思い体を起こすと、ちょうど母親と先生が入ってきた。
「あ、南雲さん。急に体を起こしたらだめだよ。」
「…っあの…足が…すごく痛いんですけど…」私が激しい痛みに顔をしかめながら言うと、先生はうつむきかげんに苦しそうに言った。
「…南雲さんの足は、完治します。しかし…前と同じように運動はできません。南雲さんはバレーボールをされているそうですね。だから、もう…」
「あの!…もう、いいです…もう、分かりましたから…」
もう、バレーボールができないということに。