「んー、おいしい!」
優しい甘みのする、メイプルタルト。
口に入れた瞬間、一気に広がった香ばしい香りに、心が弾む。
あ〜、たまらない!
動かす手はとどまることを知らず、お皿はすぐに空っぽになってしまった。
「……はぁ、本当どうしよう」
寂しくなった目の前のそれとリンクするように、何か喪失感に似た感情がふつと胸を襲ってきた。
なんでこんなことになっちゃったんだろ。
再び現実と向き合った私は、天井を仰ぎながら嘆息を漏らした。
知られてしまった秘密。
誰にも内緒だった、放課後の私──。
「どうか、全て夢でありますように……」
今の私にはただ、そう願うことしかできなかった。