二人きりになると、佐奈はベッドに腰かけた体勢で、俺の上にストンと落ちてきた。

俺の胸に顔をつけながら、可愛くしがみついてくる彼女の髪を俺はそっと撫でていた。

「私ね、こうしていつも圭吾の心臓の音を聞いていたの」

「いつも?」

「うん。お見舞いに来る度にね、圭吾にキスしたり、こうして甘えたりして…圭吾が生きてることを確かめてたんだ」

佐奈はにっこり笑いながら顔を上げた。
その時、それまで感じていた違和感がある確信へと変わった。

「あのさ……もしかして俺って」
「あっ、そうそう、思いだした! 圭吾、ちょっと待っててね」

俺の言葉を掻き消した佐奈は、ベッドから降りてバッグを取りに行った。

そして、戻ってくると、中からティファニーの青い箱を取り出して、にこにこしながら俺の指にプラチナのリングを嵌めたのだった。

ふと見れば、佐奈の薬指にも同じデザインのリングが嵌められていた。

これって結婚指輪だよな。

「そっか…出来上がったのか。確か3週間かかるって言ってたもんな?」

入籍した日に佐奈がそう報告してくれた。
と言うことは、俺は2週間もの間、意識を失っていたことになるんだな。

一人で納得していると、佐奈がブルブルと首を振った。

「ううん。違うの。一年経ったから、クリーニングに出してきたんだよ。ちょうど圭吾のお誕生日だったしね」

「え……一年」

俺は言葉を失う。

「……なあ、佐奈。俺って今日誕生日なのか?」

「うん。そうだよ」

「……俺は何歳になった?」

「28歳だよ」

佐奈は笑顔で答えた。

「28……」

ああ…。
そう言えば俺の耳もとでもそんなことを言っていたか。

でも、まさか…一年もの月日が流れていたとは。
その間、佐奈はずっと一人で待ってたのか。
胸がギユッと締め付けられる。

「佐奈…ごめん。ごめんな」

俺は思い切り彼女を抱きしめた。

「一人で辛かったよな」

「ううん。圭吾が戻って来てくれるって信じてたから」

「佐奈……」

思わず佐奈に口づける。

「んっ…」

「ごめん…ちょっと抑えられない」

俺は愛しさの余り、キスをしながら佐奈をベッドの上に押し倒していた。

何度も角度を変えながら俺はキスを深めていった。
佐奈も息を切らしながら、必死に俺についてきた。

もう止まらなかった。
彼女の首筋にキスを移し、そのまま胸もとへと愛撫を滑らせていく。

すると、

「あっ…圭吾」

佐奈が体を震わせて、熱っぽく声を上げた。

そこで、ようやく我に返る。

アブね。
このまま最後まで抱くところだった。

何とか理性でとどまると、佐奈は呼吸を整えながら恥ずかしそうに呟いた。

「ねえ、圭吾。今のがキス以上のことなんでしょ? やっと私達、できたんだね」

佐奈は照れながらも満足げな顔を見せた。
そんな彼女の耳もとで、俺は真実を告げる。

「佐奈ちゃん、ごめん。こんなもんじゃないからね。退院したら覚悟しといて」

え?と混乱する彼女の唇を、俺は再びキスで塞いだのだった。