それでもあなたを愛してる


“圭吾、お誕生日おめでとう。今日で28歳だね”
“ちゃんといい子にしてるよ”

耳もとで佐奈の声がして、唇に温かいものが触れた。重い瞼を少しずつ開くと、ボンヤリと佐奈の姿が見えた。

何だか久しぶりに会えたような、そんな懐かしさを感じていると、突然、爪に痛みが走った。

思わず「イテッ」と呟くと、佐奈が「ごめんね」と慌てて返した。

けれど、5秒後。
佐奈は「え?」と言う顔をして俺の方を見た。

パチッと目が合った瞬間、佐奈の目が大きく開かれた。

「うそ!!」

佐奈はガタッと椅子から立ち上がり、俺に向かって大声で問いかけた。

「圭吾!? 分かる? 私のこと分かる!?」

俺がゆっくり頷くと、佐奈の顔がぱあっと輝いた。

「ちょ、ちょっと、待っててね! 今、先生呼んでくるからね!」

そう言い残し、佐奈は勢いよく病室を飛び出して行ったのだった。

俺はその間、少しずつ記憶を取り戻していた。

余命半年だったこと。
脳の手術を受けることになったこと。

そして、“必ず戻る”と佐奈に約束したことを。

「佐奈……」

思わずそう呟いた時、佐奈が主治医を連れてバタバタと戻ってきた。

「圭吾! 先生来てくれたよ」

「真崎さん、自分の名前は言えますか?」

主治医が俺の顔を覗き込んだ。

「真崎……圭吾です」

ゆっくりと答えると、今度は目の前に指を差し出してきた。

「これは何本に見えますか?」

「2本……です」

「手は動かせますか?」

「はい」

言われた通りに手を開き、そのままギュッと力強く握った。

その瞬間、胸に熱いものが込み上げてきた。
生きて佐奈の元に戻って来れたという喜びと、佐奈とこれからの人生を共に歩んでいけるという喜びを噛みしめる。

「はい。結構ですよ。明日、詳しい検査をしますが、とりあえず問題なさそうですね」

主治医がそう言うと、佐奈が子供のようにうわぁーと声を上げて泣き出した。

「良かったね、圭吾。ほんとに良かったね」

佐奈は肩を震わせながら、何度もそう繰り返していた。