そして、いよいよ光輝との見合いの日を迎えた。
光輝の両親は海外出張中で、俺を含めた三人で会うことなった。
佐奈との縁談に関して光輝の両親は、“光輝が良ければそれでいい”というスタンスらしく、これからのことも全て光輝に任せると言っているそうだ。
けれど、決して無関心だからということではなく、彼らは本当に忙しい人達なのだ。
姉が光輝の兄と結婚する時もそうだった。
あまりにも姿を見せないので、社長令嬢でない姉との結婚が気に入らないのかと心配した程だ。でも、それは思い過ごしだったようで、姉のことは自分の娘のように大事にしてくれている。
恐らく光輝の両親は、“政略結婚”への拘りなんて初めからなかったんじゃないかと思う。
光輝に社長令嬢の見合い写真を次々と送りつけてきたのも、政略結婚を毛嫌いしていた光輝への起爆剤のつもりで…。モテるくせに、ここ何年も浮いた話のない息子に、早く本気の相手を見つけさせ、結婚をさせたかっただけなんじゃないのかと…。
まあ、あくまで俺の憶測に過ぎないのだが。
『お客様、こちらのワンピースはいかがでしょうか?』
戻ってきた店員の声で、ふと我に返る。
実は今日、佐奈にプレゼントする服の下見に来ているのだ。
ある海外セレブが愛用しているというブランドの服を、佐奈が“いつか私も着てみたい”と言っていたからだ。
俺が彼女の夢を叶えてあげられるチャンスなんて、今日くらいしか残されていなかった。
とは言え、
やっぱり佐奈には、少し大人っぽ過ぎた。
店員が持ってきた黒のワンピースも、スリットが深すぎてとても佐奈には着せられない。
なかなか首を縦に振らない俺に、別の店員が奥の部屋からピンク色のワンピースを出してきた。
『では、こちらなんてどうでしょう? 新作の一点ものなんですが』
『うん。すごくいいね! これなら、きっと彼女も気に入ると思う』
淡いピンク色のワンピースは、気品があって佐奈のイメージにピッタリだった。
『じゃあ、後で彼女を連れてくるけど、俺が下見に来てたことは内緒でね』
笑いながらそう言うと、店員達はニコリと口もとを緩めながら『かしこまりました』と一礼した。
その後、俺は佐奈の大学へと向かった。
いつもの場所に車を止めて待っていると、突然、目まいが襲ってきた。
しばらく、なかったのに。
薬が効かなくなってきたのだろうか。
とりあえず、約束の時間まではまだ余裕があるから、シートを倒して、少し休むことにした。
それからしばらくして、
『圭吾、ごめんね。私のせいだよね。大丈夫?』
泣きそうな佐奈の声で目が覚めた。
どうやら彼女は、自分が試験勉強に付き合わせたせいで俺が体調を崩したと思ったようだ。
ただの寝不足だし佐奈のせいじゃないよと笑ってみせた。
『それよりテストはどうだった?』
『あ…うん。単位は大丈夫だと思う』
『そっか。でも、よくあんな短時間で間に合わせたよな』
『うん。私、頭はそんなに悪くないの』
得意顔で佐奈が言う。
だから、ついいつものクセでからかってしまった。
『そうだよな。ちょっと鈍くさくて、世間知らずなだけなんだよな?』
すると、佐奈はプクッと頰を膨らました。
『ちょっと調子に乗らないでよね。圭吾のことまだ許した訳じゃないんだからね。今日のお見合い相手が素敵な人じゃなかったら許さないんだから。ちゃんと責任もって私の幸せ見届けてよね』
佐奈は、“ちゃんと覚悟を決めたよ”という顔で俺をまっすぐに見つめてきた。
『そうだな……ちゃんと見届ける』
俺は自分に言い聞かせるように、そう呟いたのだった。



