それから一週間が経ち、社長は病室で仕事をこなせるまでに回復した。
と言っても、病状自体は深刻なものであることに変わりはないのだが。
それより、問題は佐奈だった。
マサヨさんがやめてしまった上に、運転手の西澤さんからも、持病の腰痛を悪化させ運転ができなくなったと連絡がきた。
周辺では空き巣の被害も多発しているようだし、この状況で佐奈をひとりにさせておくのは、さすがに不安だった。
『おまえが一緒に住むしかないんじゃないか? 新しい家政婦の手配だって、もうしばらくかかるんだろ?』
そんな光輝の言葉もあり、佐奈の様子を見に行ったのだけど。
確認もせずに玄関を開けてしまう佐奈に、俺は不安と恐怖を強く抱き、彼女との同居を決意したのだった。
部屋に上がると、キッチンには真っ黒に焦げた朝食が置かれていて、胸がキュッと締め付けられた。
『俺が一緒に住んで佐奈の面倒をみることになったから』
社長に頼まれたのだと言って、必死に佐奈を説得した。
初めは渋っていた佐奈だったけれど、何とか承諾してくれて。
俺はホッとしながら、車に積んできた着替えをゲストルームへと運びこんだ。
『ほら、佐奈も準備しておいで。大学いくんだろ?』
一瞬、佐奈は戸惑った表情を浮かべたけれど、頷いて部屋へと上がって行った。
けれど、しばらく経っても一向に部屋から出てこない佐奈。ワンピースのファスナーが、髪に引っかかってしまったのだと言う。
『やってあげるから、出ておいで』
ようやく出て来た佐奈の髪に、俺は優しく手を触れた。
ファスナーの隙間からは佐奈の白く透き通った肌が見え、あまりの愛おしさに思わず抱きしめてしまいそうになった。
『できた』と手を離すと、佐奈が『ありがとう』と振り返った。
彼女の姿に見とれていると、佐奈が『なに?』と首を傾げた。
『いや、そのワンピース初めて見たなって』
すると、佐奈は顔をパッと明るくして、マサヨさんと買いに行ったのだと俺に説明した。
『あっ…なんか変だった?』
チラリと俺の顔を見る。
『ううん。佐奈によく似合ってる』
目を細めながら答えると、佐奈は俺から顔を背けた。
『そんなセリフ、軽々しく言わないでよね!』
そして、階段をかけ下りて行った。
確かに諦めろと言っておいて無神経だよな。
この同居だって、佐奈の面倒を見る為と言いつつ、結局は彼女のそばにいたかっただけなのかもしれない。
ごめんな、佐奈。
振り回してばかりで、ホントにごめん。
でも、ちゃんと佐奈の幸せを考えているから。
少しの間だけ、俺の我が儘を許してくれ。
心の中で呟きながら、俺は佐奈を追うように大きな階段を下りて行った。



